日本のクリーチャー界を牽引するはずだった悲運の血しぶきモンスター


 

邦画スプラッターの産声が聞こえるか
和製クリーチャーのうごめきが・・・
80年代を彩った和製スプラッター三作品を続けて紹介するこのレビュー。
二本目は、特に思い出深い作品グズーをもって参りました。

 

人類が生まれる以前に作られた失敗作…。
興味深いことに、それについては東西で似通った神話が語りつがれております。
西洋においては創世記に記されるリリス、東洋においては古事記に登場するヒルコがそう。

リリスは、アダムの最初の妻として作られたものの、男の支配下におかれることを拒んでエデンの園を去り、紅海沿岸に移り住んで、そこで多くの悪魔と交わり、たくさんの魔物の子をなした失敗作。
ヒルコは、国産みの際にイザナギとイザナミの間に生まれた最初の子でありながら、子作りの際、女神イザナミから声をかけてしまった事が原因で不具の子として生まれ、葦の舟にのせて川に流され、黒歴史扱いされてしまった神様の失敗作。
これら、あまりに哀れで、魅力的な、神が創りし失敗作の逸話は、数多の時代、数多のジャンルの創作者たちにも刺激を与え、結果、多くの作品が世に生み出されてきました。
近しい所では、和製クリーチャー映画の傑作『妖怪ハンター・ヒルコ』なんか、そのものズバリですね。
神話のヒルコがクモ型寄生モンスターとして大暴れする沢田研二主演の快作ホラー。一匹だけ地上に出たヒルコが池でたゆたうのを見て、登場人物が「あいつもこの池の底からずっと月を見上げてたんだな」と呟くあたりに、闇に葬られた生き物の悲しさが表現されていたように思います。
かの名作マンガ『デビルマン』に登場するデーモン族も、地球に先住した神様の失敗作という設定でしたね。
人気アニメ『新世紀エヴァンゲリオン』などは、創世記を下敷きにした設定が物語の軸にすえられ、リリスやリリン、アダムといった単語が作中で何度も使われていました。

今回ご紹介する『GUZOO 神に見捨てられしもの』も、そういった太古の昔に打ち捨てられた神の失敗作を題材にした作品のひとつなのです。

グズーの体表を背景にした肉まみれなタイトルが素敵ですね。

「太古より神に見放され、現状の生物と、まったく異なった進化の形態を辿った生物。”GUZOO”は意識を持ちながら生物の進化の過程を無視し、その醜さと凶暴性ゆえに歴史の中に封じこまれていた。”GUZOO”は、次々と生物への寄生を繰り返し、下等生物から、ヒュ-マノイドの形態へと変化していく。…そして今、十億年の眠りから蘇ろうとしている」

こんなテロップで幕を開ける本作。
夏の休暇を過ごしに別荘を訪れた仲良し少女4人組が、地下で研究対象として飼われていた謎の古代生物「グズー」の襲撃をうけ、恐怖の夜を過ごすという、至ってシンプルなストーリー。
しかしながら、当時としてはかなりの熱意で造り込まれた古代クリーチャーの、製作途上の写真が『V-ZONE』誌上に掲載された時は、読者のワクワクはMAXにまで高まったものです。
そう、この映画は80年代にカルト的人気を博したホラー雑誌『V-ZONE』の誌面で企画され、本格的和製スプラッターを目指して製作された非常に特異な作品なのです。
監督は、『処女のはらわた』『美女のはらわた』でロマンポルノ・スプラッターという新ジャンルを生み出したガイラ監督。
モンスターデザインは、天才たけしの元気がでるテレビで着ぐるみクリーチャーなどを多数手がけた松山仁氏。

こちらが、いまやそのスジではネクロノミコン並の伝説の書として語り継がれていると噂(?)のホラー雑誌『V-ZONE』。直球勝負な表紙がステキでしょ。

 

そりゃあ、期待しましたよ。
日本でモンスターというと、怪獣映画かヒーロー物でしかお目にかかる機会がなかったですから。

異性などには目もくれず、『デッドリー・スポーン』や『遊星からの物体X』に興奮していた不健全極まりないガラスの10代。いつか日本でもゲチョグロのモンスターが登場する日を夢見て、毎日、妄想に息を荒くしておったとですよ。
名作『マタンゴ』や『吸血鬼ゴケミドロ』は、テレビ放映ですでに見てましたが、ゴアやスプラッターと呼ぶには、ちょっと違う気がしましたしね。出血量的に。
それがとうとう、日本でもビッシャビッシャと血しぶき上げて、人の頭を噛みちぎる、グロくてゴアゴアなモンスターが作られるというのです。
期待するなってーのが無理な話でしょう。
本作の発売日ともなると、自転車かっ飛ばしてビデオ屋に突入。
借りたVHSを後生大事に持ち帰り、自室にこもってすぐ再生。
ヤッホー!きたきた、ビチビチバックンのキモいクリーチャーきたー!
ビチビチとのたくり乙女の腹を食い破る触手!
ああ、血と臓物に彩られし、わが青春のありし日よ…聖なるかな!

美女を蹂躙する触手・触手・触手!

しかし、そうスンナリとはいかないのが、現実の厳しきところ。
当時中学生だった僕の目からみても、もの凄くもったいなくて、もどかしい映画というのが、初めに観た感想でありました。
まず、中坊の僕はこう叫びました。
「娘四人のキャッキャウフフなどいらん! ええい、グズーを出せグズー!」
あと、少女が地下に落下する場面で、中坊の僕はこう呻きました。
「え…何?このファンタジックな特殊効果…合ってない…映画の陰惨なムードに合ってないよ…」

そう、あくまで推察ではあるのですが、企画段階で盛り上がる内、アレもコレもと詰め込み過ぎて、やがて収拾がつかなくなり、結果として何を描きたいのか、いまいちよく分からない、奇っ怪な映像モザイクが誕生してしまった…そんな感じの仕上がりになっていたのです。
実際、ネット上にみられるレビューでも、その辺の「とっ散らかった部分」をやり玉に上げて、こき下ろしているのをよく見かけました。

しかし…しかしです!

この作品は、安易に失敗作呼ばわりして、葬り去って良い作品ではけしてありません。
特殊メイクの巨匠リック・ベイカーも、デビュー作は『吸盤男オクトマン』でした。
ジョニー・デップも、最初はフレディにさっくり殺される役でした。
ロード・オブ・ザ・リング』でアカデミー監督になったピーター・ジャクソンも、デビュー作はゲロまみれのトンデモSFスプラッター『バッド・テイスト』でした。

漢字で書くと「嵎菟卯(ぐずう)」。
どうです、この日本的で味のあるネーミング。
ヒルコ神話をベースに、シリーズ化を想定して作られた設定からは、あれもしたいコレもしたいという製作者たちの野望が見え隠れします。
彼らの全てのリビドーを叩き込んだが如き、渾身のキモかっこいいデザインは、「こんな和製モンスターみたことねぇー!」と僕らのような血に飢えた青少年のハートを狙い撃ちしました。
ああ、邦画がはじめて足を踏み出せしゴアクリーチャー道。
『GUZOO』はその第一歩を踏み出した記念すべきモンスターとして、和製ゴアクリーチャー界を牽引していくはずでした、それだけの器量を十二分に備えた魅惑的な怪物でした。

まず、『デッドリー・スポーン』を彷彿とさせるキモさ炸裂のそのデザイン!
肉の塊に大口がついた異形の姿は、思わず、「GUZOOフィギュア出してくれー!」と叫びたくなります。
至るところから伸びた触手の淫靡さも、とてもそそる。

ヌメヌメとして肉肉しい、この美しい姿をみよ…。

触手攻撃で乙女の腹を食い破るシーンは、観ていられないほど痛々しさを表現していたと思います。
大口も、しっかりと被害者の頭にかじりついて力まかせに引きちぎるというパワフルな人体破壊を見せつけてくれました。

ビチビチと細かい食腕を動かすにはコンプレッサーを使用したそうな。

そんな魅惑の要素がみっちりつまった『GUZOO』。
どうして彼は、この一作で終わってしまったのでしょうか。
映画そのものの出来がイマイチ思わしくなかった…それは確かにそうかもしれません。
けれど、それ以上に、この古代生物の行く末に決定的な打撃を与えた出来事がありました。
当時の邦画史を語る上で、けして避けては通れない忌まわしい事件です。

宮崎勤事件…。

一人のイカれた性倒錯者が引き起こした残忍な殺人事件は、スキャンダラスな出来事に飛びつく当時のマスメディアによって拡散され、消費され、やがてネタが尽きてくると、人々の怒りの矛先をホラー映画に向けてバッシングするという暴挙へと変換されていきました。
それにより巻きおこった過剰な自主規制の嵐は、ビデオ屋の棚から過激なスプラッター映画をことごとく消し去り、企画されていたホラー映画をお蔵入りにし、新たな血しぶき映画の製作の機会さえ奪い去り、この島国から徹底してゴアの芽を摘んでいったのです。

これは、現在にまでつながる邦画衰退の大きな要因ともなっています。
何故なら、ホラー映画というジャンルはセンセーショナルであるが故に、低予算しか確保できない小さな製作会社でもアイデア次第で収益を上げられる稀有な分野だからです。それにより、新たな才能を世に送り出す登竜門的な役割も果たしてきました。
サム・ライミの『死霊のはらわた』も、当時大学生だった彼らが自力でお金をかき集めて作った自主映画でした。
いまやゲームや映画で引っ張りだこの人気キャラクター・ゾンビを一躍スターダムに押し上げたロメロの『ゾンビ』も、ハリウッドからは遠く離れたピッツバーグの片田舎で撮られたインディペンデントの低予算映画だったのです。

また、ホラー映画はショッキングで非現実的であるが故に、新しい技術や表現方法を生み出す創作の最前線ともなってきました。ハリウッド特殊効果の巨匠たちも、はじめは低予算映画で活躍し、技術を磨き、その中で自分の才能を見せつけ、やがて世界に名を轟かせるようになったのです。
遊星からの物体X』も『ハウリング』も『狼男アメリカン』も『スキャナーズ』も、ハリウッドのメインストリームからは外れた低予算映画だったのですから。

そんな、可能性たっぷりで使い勝手のいいジャンルを長らく封印し、日陰もの扱いしてきた結果が、香港や韓国にもあっさり追い抜かれてしまった日本映画産業のいまの衰退ぶりに反映されていると言っても過言ではないと思います。
(あとね、ミニシアター系でかかるような新人の作品は、メッセージ性や芸術性の高いものでなければなんて風潮…作ったのは、どこのどいつなんでしょうね。やたら高尚さを要求するのって、馬鹿さ下衆さの裏返しなんでしょうかね。こういうのも、日本映画を頭でっかちにしてしまった要因だと思うんですがね)

近年になってようやく、過激な和製スプラッターがビデオ屋の棚に戻ってきました。
喜ばしい限りです。
だけど、「これはギャグですよー、笑えるグロですよー」という言い訳をいちいち強いられているように思えるのは気のせいでしょうか。
どんなジャンルでもそうですが、正統派が多数を占める中にあってこそ、変化球が映えるのであって、変化球で埋め尽くされたらそれはもう…

…ストーップ!
おっとっと…この話になると、ついついアドレナリンが噴出して、ヒートアップしてしまいます…すみませんね。

つまり、この『GUZOO』もですね、タイトルに「パート1」とあるように、シリーズ化される予定だったそうなんですよ。
それが事件の影響で続編企画はサクッと中止に…。
大元の『V-ZONE』も廃刊に…。
もし続いていたら、どんな作品になっていたのでしょうか。
作品ラストで亀さんに寄生…というか擬態したグズー。
冒頭テロップにあるように、他生物への寄生を繰り返しながら、最終的には「物体X」ばりに人間社会に紛れ込む予定だったのでしょうか。
そこで、『ミミック』ばりに人間に擬態したグズーさんが、バリバリと人間を捕食する勇姿が見られたのでしょうか…。
あぁ、観たかった…観たかったよぉー!o(T◇T)o

実は、『GUZOO』の続編は意外な形で世に送り出されています。
ホラー雑誌『V-ZONE』のライバル誌『ダンウィッチ』の創刊号に、何と、『GUZOO』のその後をモチーフにしたフォトストーリーが掲載されたそうなのです。
そのことを、特殊メイクアーティストの某氏と、グズーのデザインを手がけた松山仁氏ご本人からtwitterで教えて頂いたときには、「創刊号!創刊号買ってなかったか、中坊の頃のオレ!」と古書棚を夜中に引っ掻き回したものです。
しかしながら、ダンウィッチは二号からしか買っておらず、僕は血涙&歯がみしながら布団にもぐり込みました。それも、つい最近のこと。(ムギギ…)

グズーさんは、最後で亀に変身します。驚異の擬態能力。
この設定でミミックばりに大活躍するグズーさんを観たかった。

どうです?
和製クリーチャー最強となりうるポテンシャルを秘めながら、邦画史の闇に埋もれていった古代生物『GUZOO』。
日本初のゴア・クリーチャーとして、好き者ホラーマニア達の期待を一身に受けた『GUZOO』。
映画の面白さが創意工夫からくるものだとしたら、積み重ねの第一歩として、けして無かったことになどしてはならない神に見捨てられしもの『GUZOO』。

そう、『GUZOO』は神に見捨てられたのだ。
当時、期待に胸を膨らませてヤツを追い続けた僕らが見捨ててはいけないのだ。

『GUZOO』がやろうとしたことは、しっかりと僕たちの胸に届いたのだから…。

もし、ビデオ屋で中古VHSを見かけたなら、必ず保護して下さい。
もし、お口に合わなかったら、破棄せず欲しい人にあげて下さい。
なぜなら、あなたが手にしたそのビデオは、れっきとした日本映画の歴史の一部なのだから。

次は、飯田譲治監督による異色の畸形ホラー『キクロプス』を紹介しますねー。
 

GUZOO 神に見捨てられしもの PART1(1986)

上映時間:40分
製作国:日本
監督:ガイラ
脚本:ガイラ
モンスターデザイン:松山仁
特殊メイク:杉本末男
特殊効果:高岡淳夫
出演者:石川裕見子,丸山智子,梶谷直美,小宮山京子,
     丸山秀美

 
 

Written by るちお[@LucioFulci74](副部長)

 

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