デモンズ’95[原題:Dellamorte Dellamore] ジャケット

映画の素晴らしさに反して、配給会社がつけた邦題はヒドイとしかいいようのないものだった。残念なパッケージもDVD化の際には多少マシにはなったが…。こんな売り方を指示した人は、もう別の仕事を探して欲しいと思うのは僕だけだろうか。左が国内版、右が海外版パッケージ。平成24年現在、国内版は絶版状態だが、中古ならまだ入手が可能


 

師匠を越えたかもしれない天才愛弟子が残した…
耽美で退廃的で漫画チックな不条理ホラーの傑作

「デモンズ’95」が垣間見せたゾンビ映画の未来

 

「デモンズ’95」はまず間違いなく、ホラー映画の歴史に残る大傑作だ。
イタリアの人気漫画「DELLAMORTE DELLAMORE」のノベライズを原作に、カフカ的な不条理世界をゾンビ映画に持ち込んで見事に映像化したのはミケーレ・ソアヴィ
デモンズ一作目に仮面の男役で出演したり、アルジェントの製作現場に迫ったドキュメンタリー「アルジェント・ザ・ナイトメア/鮮血のイリュージョン (1986)」を製作したりと、ダリオ組ではすっかり顔なじみの彼だが、ミュージカルの舞台裏を血に染めるフクロウ殺人鬼の暗躍を描いた初監督作品「アクエリアス」で、いきなりアヴォリアッツ国際ファンタスティック映画祭の最優秀恐怖映画賞を受賞。そのハイセンスで生真面目な作風には、早くからコアなホラーファンの注目が集まっていた。
そして今作「デモンズ’95」で、ついに彼は、師匠であるダリオ・アルジェントを越えたとまでいわれるようになったのである。
ソアヴィ自身、まるで、すべてをやり切ったかのように今作を最後に映画界から引退している。理由は障害をもった息子さんの世話に専念するため。まだ若き天才は、惜しまれながらも忽然と我々の前から姿を消した。もっとも惜しむらくは、ウルトラ級血しぶき映画「ブレインデッド」の登場で行き着くところまでいってしまい、マンネリ化の一途をたどっていたゾンビ映画に、新たな道を指し示しておきながら、後につづく者が現れるよりも先に、先駆者自らが一線を退いてしまったことだろう。近年、再び息を吹き返すその日まで、ゾンビ映画はしばし冬の時代を迎えることになる。

 

さて、そんなゾンビ映画らしからぬ「デモンズ’95」の物語はこうだ…。

孤独な墓守青年フランチェスコが働く墓地では、埋葬から7日経つと死者が蘇り、
生ける屍リターナーと化して生者に襲いかかってくる。だが、誰もその話を信じて
はくれず、町の役場も取り合ってはくれない。
変なウワサが立って職を失わないためにも、相棒のナギと一緒に夜ごと死人狩りに
精をだしては、墓地の安寧を守る日々だ。
正直こんな町からはオサラバしたいが、学もなければ行くアテもない。
もちろん友達もゼロ。愛読書は電話帳と、まったく冴えない。だが、人生なんてそ
んなものと心のスミで割り切って、フランチェスコは今日も死人を地獄に返す。

そんな彼の前に、ある日、若く美しい未亡人が現れる。老いてなお絶倫だった亭主
の墓参りにやってきた彼女だったが、孤独な墓守と未亡人…。二人はすぐに魅かれあ
い、ある夜、旦那の墓をベッド代わりに互いを求めあう。
しかし世の中そう甘くない。
墓から這いでた亭主が不貞な彼女をかみ殺し、フランチェスコもまた、死んでリター
ナーと化した彼女に噛みつかれてしまった。
それ以来、フランチェスコを取り巻く世界は少しずつゆがみはじめる…。
次第に現実と空想は入り混じるようになり、フランチェスコの精神まで蝕みはじめる。
墓場では死神から、「死者はワレらのモノだから勝手に殺すな。殺したければ生きて
るモノを殺せ」などと無茶なクレームをつけられて、彼は仕方なく拳銃片手に町にく
りだし、片っぱしから生者を殺す簡単なお仕事にシフトチェンジ。
だが、なぜか彼の犯罪に気づく者は一人もおらず、知り合いの刑事からもお咎めなし。
ナギは死んだ少女の生首とラブラブ。結婚の約束まで交わす始末。あげくは、死んだ
未亡人そっくりの女まで現れて、世界のゆがみはますますひどくなるばかり。

全てに嫌気がさしたフランチェスコは、ついにナギを連れて町を出ることを決意。
車を飛ばして町境のトンネルを抜けるが、そこから先に道はなく、
あるのはなんと断崖絶壁。あわててブレーキを踏んだせいで、頭を打ったナギは死亡。
フランチェスコは銃口をナギに向けるが撃つことができない。
この時初めて、友達と呼べるのはナギだけだったと気づかされる。
途方に暮れるフランチェスコ。その背後でナギがひょっこり起き上がり、こう言った。

「おうちに帰りたい閉じられた世界の中で、フランチェスコの人生はなおもつづくのだろうか…。

…とまあ、こんな具合で、ゾンビ映画というよりは幻想文学のようなお話がソアヴィ監督渾身の映像美で語られるのである。
どうです? 面白そうでしょ?

 

もうお分かりだとは思うが、デモンズシリーズとは一切関係がない。
どちらかというと、「裸のランチ」や「ジェイコブズ・ラダー」とともに語られるような、文学的かつ麻薬的魅力に満ちあふれた作品なのである。さらに世界観のモチーフは、クリムトムンクと同じ19世紀に活躍した画家ベックリンの代表作『死の島』。欧州の終末的な世界観を描いた傑作絵画を映像にしようというのだから、相当な気合の入りようである。

だからといって、心配はご無用。そもそもコミックが元ネタなのだ。小難しさはまったくなく、それどころか、思わず手を叩きたくなるような派手なヴィジュアルが全編を埋め尽くしている。
地面を突き破り、墓からバイクごと飛びだしてくるライダーゾンビ。事故で首を切断したせいで、生首だけで蘇る一頭身少女などなど、奇妙で楽しい仕掛けが盛りだくさん。そういったものと哲学的ムードを両立させている辺りに、監督の絶妙なバランス感覚が伺いしれる。

また、物語中盤。町外れで大事故が発生し、大量の死者が出たがために、墓地がリターナーであふれ返るというシーンがある。ここでも、その類まれなセンスは如何なく発揮されている。

ワラワラと迫りくる無数のゾンビ。シャワー中を襲われ、ほぼ丸腰で彼らを相手にしなくてはならなくなったフランチェスコ…。大ピンチともいえる場面だが、それをあえてドタバタ漫画のようにスラップスティックに描いてみせることで、黒い笑いを観客から引き出してみせた監督のセンスには只々脱帽するばかりだ。

 

師匠のアルジェントと同じく、映像や物語の端々にこだわる辺りにも、非凡な才能が見てとれる。フランチェスコが墓場を歩くシーンで、画面のスミにちらりと死神の影を映し込んでみせたり、小道具のアップを多用して印象的な場面を作り上げていたり…世界観を構築するためのギミックが、それはもう丹念に映画の中に積み重ねられていく。特にスノードームなどは、この映画の不可思議な世界を象徴するようにたびたび画面に登場する。

ゾンビを撃ち殺すのに使う“銃”。これも、ちょっと変わった逸品。お好きでしょ?銃。
フランチェスコがゾンビを射殺するのに使用する銃は、「ボデオ M1889リボルバー」。

ボデオ M1889リボルバー

これが「ボデオ M1889リボルバー」。その形状からマカロニウエスタン『暁の用心棒』でも使用され、調べるにイタリア映画ではたびたび登場する銃のようだ。おそらくチネチッタの倉庫に在庫があるんでしょうね、とは蔵臼氏談。

グリップが特徴的な聞き慣れない名前のこの拳銃は、第一次から第二次世界大戦にかけて、イタリア軍に使用されたものだそう。だからこそ、イタリア映画の主人公が愛用する銃として設定に無理がないのだと、銃器に詳しいマカロニウエスタン研究家・蔵臼金助氏がtwitterで教えて下さいました。この場を借りまして、貴重な情報提供に感謝いたします。

また、マヌエル・デ・シーカが手がけたレトロかつコミカルな風合いの音楽も、作品世界を一層奇妙なものに仕立て上げるのにひと役かっている。

このように、奇抜で奇天烈なあらゆる要素が絡み合って、「デモンズ’95」の幻想世界は形作られているのである。

そして、いつも摩訶不思議な物語の中心にいて、ひたすら翻弄されまくる気の毒な主人公フランチェスコの造形も楽しい。
美形なのに全然イケてない彼を演じるのは、寄宿学校モノの名作「アナザーカントリー」で主人公ガイを演じたルパート・エヴェレット。ギリシャ彫刻のように整った顔立ちは、年をとって、ますます色気を帯び、近寄りがたいオーラすら放っている。

ルパート・エヴェレット

左が「アナザーカントリー」、右が「デモンズ’95」。ちなみにルパートに抱きついてるのは何と「SAW」でゴードン医師を演じたケイリー・エルウィスだ!美少年だったんだね。

そんな彼が演じる墓守フランチェスコは、アンニュイで、厭世的で、世間知らず。未亡人そっくりの女が男性恐怖症であると知るや、アレの切除を町医者に頼み込むも、医者がビビッて手術は失敗。あげく、女にあっさりフラレて踏んだり蹴ったり…。そのあまりのイケてなさに、だんだんと彼が愛おしく思えてくるから不思議だ。

 

こんなにも素敵な映画「デモンズ’95」。売り方次第では、オシャレな血まみれホラーとして全国の女子にアピールできたかも知れないのに…。

原題だって、「デラモルテ・デラモーレ(DELLAMORTE DELLAMORE)」で、原作漫画と同じ、主人公の名にちなんだもの。悲惨な邦題つけられて、エログロ枠でぞんざいな売り方されてしまったことが、悔やまれて仕方がない。
何度も言うが、こんな売り方をした宣伝配給担当者は、センスがないから、もうホラー映画に関わらないで欲しい。

というわけで、筆者はあまりに悔しいからtwitterで時々いろんな層に向けて宣伝文をつぶやいては、いつ芽吹くかもしれない草の根活動に精を出しているのです。
以下のように…。

[デモンズ’95 主婦向けアピール]
「最近、疲れやすくて家事が大変…困ったわぁ」
「そんな奥様方にお薦めしたいのがコチラ!デモンズ’95!超イケメン俳優がいざなう官能の迷宮に迷いこむことで、日頃のストレスが一発解消!あなたも始めてみませんか、デモンズ’95!」
「あら、いいわね」
「主婦の味方、デモンズ’95!」

[デモンズ’95 サブカル愛好家向けアピール]
…本作での美貌の主人公フランチェスコが破滅へと突き進む行動を鑑みるに、それは正に稲垣足穂が語る所のA感覚にも通じる快楽の追求行動であり、アヌス本来の役目である排泄という行為自体が根源的な快楽の源である事を…云々。

[デモンズ’95 幼児向けおすすめ文]
…これはフシギなお墓のものがたり。
しんじゃったはずのミンナが起きてきちゃうもんだから、墓守のフランくんは今夜も大いそがし。なのに助手のおデブちゃんときたら、一頭身の可愛い女の子と毎日遊んでばかり。

…てな具合。

はい、バカめアホめと罵りください。それくらい、この映画が好きなんです。イタリア本国ではちゃんと評価されてリマスタリングもなされているというのに…。特典付きBlu-rayまで発売されているそうなのに…。ここ日本ではDVDすら廃盤のまま。再販される気配すらなし…ぐぬぬ。

ムキー!(炸裂)
何で、何でなんでぇ〜!(血走った眼)
こんなのってないよぉ〜!(駄々っ子のように床でジタバタ)
ひどいよ…もっとみんなに観て欲しいよ…(ぐすん、ぐすん…泣きやんだ)

あぁ、ホラーの神様…お願いですから、今作が日本でもきちんと評価されますように。そして、国内版Blu-rayが特典付きでリリースされますように。
もうほんと、「デモンズ’95」が好き過ぎて…生きていくのが辛いのです。

 

ちなみに、ミケーレ・ソアヴィは最近また復帰して、TVドラマや映画を撮ってます。
ブレイブ・ソルジャーズ TNT自爆テロの恐怖 (2007)<TVM>」 監督
グッバイ・キス -裏切りの銃弾- (2006)<日本未公開>」 監督/脚本
…どうも、サスペンスやアクションが主体みたい…。
今のイタリアではホラーに予算は下りないってことでしょうか…。
そいつはあんまりだ。
ソアヴィ、またホラー撮ってよ。
最高にイカしたヤツをさ。

 

《デモンズ’95な小ネタ》
最近、ホラーマニアックスレーベルから「フェノミナ HDリマスター版」のDVDが発売されましたね。
特典として、「デモンズ’95」でも特殊メイクを務めたセルジオ・スティヴァレッティのトークショーの模様が収録されてるんですが、ファンの中にですね、「デモンズ’95」のTシャツにサインをもらってる人がいるんですよ。
“ああ、みんな「デモンズ’95」好きなんだなー”と思わずホッコリしてしまった一幕でした。

海外版Blu-ray ジャケット

ルパート・エヴェレットを前面に押し出したジャケットが何とも素敵な海外版Blu-ray。日本でもぜひリリースをお願いします!

 

Written by るちお[@LucioFulci74](副部長)

 

デモンズ’95[原題:Dellamorte Dellamore](1994)

上映時間: 100分
製 作 国  :イタリア/フランス/ドイツ
監   督 :ミケーレ・ソアヴィ
原   作 :ティツィアーノ・スクラヴィ
脚   本 :ジャンニ・ロモーリ
撮   影 :マウロ・マルケッティ
音   楽 :マヌエル・デ・シーカ
出   演 :ルパート・エヴェレットフランソワ・ハジー・ラザロアンナ・ファルチ
*94年度ダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞最優秀美術賞受賞作。

 

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