死霊の罠パッケージ

左が国内版DVD、右が米国版DVD。
国内版はマスターを紛失したとかでVTRからマスタリングされており画質が悪い。オススメは画質もきれいな米国版。最近はオンラインで簡単に買うことができる。ただし、貴重なメイキングは国内版にしかついていないので注意。

 
日本が初めて挑んだ本格派スプラッタホラー!
邦画らしからぬ表現の先にみたホラーの未来

映画「死霊の罠」が仕掛けたワナ

 

80年代初頭?
大ヒットを飛ばしたハロウィン13日の金曜日につづけとばかり、米国では血みどろのスラッシャー映画が大量生産されていた。傑作・珍作・駄作…。ミソもクソも一緒くたに、次から次へとリリースされる膨大な数の殺人映画、血しぶき映画…。やがてはレンタルビデオ黎明期にあった日本の市場にも大量に流入し、そして…空前のホラー映画ブームが幕を開けた。

思春期まっただ中、多感な青春時代を送っていた少年は、突如ちまたにあふれはじめた血みどろの映画の数々にはじめは面食らった。
“うわ? 気持ち悪い…。でも、人間があんな風に変形したり、グチャグチャになったり、どうやって作ってるんだろ”
好奇心旺盛な十代、もともと映画好きだった少年が、そんな禁断の香り漂う血の誘惑に抗えるはずなど、元よりあろうはずもない。
気がつくと、少年はいつしか、ひたすらホラー映画を追い求める一匹のケモノ、血に飢えたケダモノと化して、日々、血みどろ映画をあさり、ホラー雑誌をむさぼり、特殊メイクという秘術に関心を抱き、漆黒の闇たちこめるホラーの深淵へと、まっ逆さまに堕ちていった。そうなるのはもはや、時代の必然だったのかもしれない。
かつて少年だったそのケダモノこそ?

ボクです(・▽・) ←ホラー獣

あの当時、そりゃあ雨後のタケノコのように、うんざりするほど多くのスラッシャー、スプラッタムービーが、無垢なボクらの心に爪あとを残しながら通りすぎていったものです。
同じ柳の下に集いしドジョウでありながら、斬新な設定で魅せる隠れた傑作もあれば、五分で見るのがツラくなる、精神的な拷問機能を備えた駄作まであって、まさにビデオ屋の棚はカオスな楽園。
少ない小遣い握りしめ、その中から面白そうな作品を選びだすのもまた楽し。
お気に入りの一本を見つけられた時などは、この上ない歓びに打ち震え、すぐさま友達にオススメ。世間一般の常識からは逸脱した血しぶきハッピーな少年時代…。

ところが80年代後半にもなると、さすがにスラッシャー映画もネタ切れ感を漂わせはじめた。確かにチャイルド・プレイなんかは、人形殺人鬼という特異なキャラでヒットを飛ばしていたし、良作はなおも作られていたが、出せば駄作だろうが何だろうがとりあえずは売れるという幸せな時代は、さすがに終わりを迎えようとしていた。

そんな折りだ。
ここ日本で『本格派スプラッタムービー』を謳った邦画が、ナント劇場公開された。
それこそが、池田敏春監督作「死霊の罠」だったのである。

公開当時は、高橋恵子主演の「DOOR」と同時上映。スリラー寄りな「DOOR」に対し、「死霊の罠」は大胆にも日本初の本格派スプラッタホラーという看板を掲げあげ、ボクらの前に猛然と踊りでてきたのだから驚いた。和製ゴアといえば、悪名高き傑作ギニーピッグが存在していたものの、そちらはあくまでアングラ扱いのビデオオンリー。日本のスプラッター映画が劇場公開なんて、はじめは信じられない気持ちでいっぱいだった。
“日本のホラー映画ぁー?大丈夫かな…”
内心、不安に苛まれながら、少年、つまりボクは、まずDOORから鑑賞しはじめた。
ロマンポルノで鳴らした高橋伴明・恵子夫妻による異色のストーカー・スリラー。監督の手堅い演出、バブル期の高級団地がかもしだす寒々とした空気感、団地妻をおびやかすセールスマンのキャラクター、演じる堤大二郎の切なくコワイ怪演。…それらがあいまって、今作は予想を超える面白さをみせた。
“アレ…けっこうイイ。団地妻とか、日本独特のじめじめしたウェット感は相変わらずだけど、コレ、面白いよ”

つづいて鑑賞を開始した「死霊の罠」…。
コレには、のっけから肋骨ごと心をワシづかみにされた。
当時、ハマりまくっていたアルジェントフルチの映画。共通するのは、ありえないくらいカッコよくハマッた映像と音楽。ゴブリンファビオ・フリッツィにはこの頃から傾倒していたし、エクソシストのチューブラーベルズなんかも大好きだった。
“音楽、かっこいぃー!”
オープニングから流れる死霊の罠のメインテーマ。
これまでみたホラー映画の傑作サントラを彷彿とさせる、なじみ深い単音フレーズ。
ボクの心は、たちまち虜に。音楽担当は吉良知彦という方で、映画音楽やテレビの曲を手掛け、現在はZABADAKという二人組ユニットとして音楽活動をしているらしい。なんてイイ曲作るんだ。
いっとくけど、コレ、まだタイトルバックの時点だからね。
やがて映画の導入部がはじまると興奮はMAX!
人気レポーター名美が、送り付けられたビデオテープを再生すると、たちまちはじまる残虐!女体切り裂きショー。
どアップで画面一杯に映しだされる眼球串刺しは、刺さった瞬間プチュッとゲル状のものがあふれだすなど、サンゲリアにも匹敵する痛々しさ。
主人公の名美を演じる小野みゆきも、モデル出身だけあって、日本人離れした長身と顔立ちがホラーな画面によく映える。
そうなのだ。これまで邦画では目にしたことがないものが、目の前の画面にこれでもかと映っていたのだ。
ストーリーからして、実に洋画ナイズされていた。

人気低迷気味の深夜番組『名美のレイト・レイト・ナイト』。
レポーターを務める名美の元に、ある日、差出人不明のビデオテープが送られてくる。
映っていたのは、どこかの廃墟で女がズタズタに切り裂かれ殺される惨たらしい光景。
早速、プロデューサーの取材許可を取りつけた名美は、構成作家の雅子、デスクの
理江、スタイリストの麗、ADの近藤を伴い、ビデオに映っていた映像を頼りに、殺
害現場となった郊外の廃墟へと向かう。
辿りついたのは、元米軍施設。
まずは三手に別れ探索することになり、一人で廃墟内を見て回っていた名美は、サ
ングラスをかけた謎の男と出会う。
「ココは遊びで来る場所じゃねえぜ」
そう警告して、男は姿を消す。弟を探しているという、謎の言葉を残して…。

やがて、密かに行動を開始する正体不明の殺人鬼。そいつの仕掛けた罠に、ひとり、
またひとりと落ちていく…。
レインコートで姿を隠した殺人鬼の目的はナニか? 名美を助ける謎の男の正体は?
多くの謎をはらんだまま、物語はまったく予想だにしなかった怒涛のクライマック
スへと突き進んでいく。

導入部から殺人鬼が動きだす中盤まで、音楽にのせて一気に魅せるテンポ良い演出は、鳥肌ものの素晴らしさ。
青と黄色の照明を使った邦画らしからぬクールな画作りは、アルジェントあたりを意識したであろうことが伺い知れる。
レインコートを着た殺人鬼の描き方も、やたらスタイリッシュでかっこいい。
ラストに登場するビックリ仰天な“弟”の正体に至っては、よくぞここまでやってくれたと拍手喝采もの。

そう、この映画は何から何までが、“これまでの邦画になかった”、“日本映画離れした”、そんな手法で撮られていたのである。おそらく、洋画に追いつき追い越せをスローガンに、予算の許す限り、思いつく限りのモノをぶち込んだのであろう。
それは、ともすればパクリのオンパレードと評されることもあるけれど、そもそも日本はマネして改良して質の良いモノを生みだすのを得意としてきた国。この国でようやく産声をあげた“和製スプラッター”の、さらなる展開に期待を寄せこそすれ、鬼の首とったみたいにパクリパクリと批判するなんざナンセンスというものだ。

確かに目立つアラや、もっとこうした方が…という不満はいくらでもある。
エロシーンが無駄に長くてダレてくることや、仲間の死に復讐を誓った名美が、最後はボロボロになりながら戦うのかと思いきや、そんなバトル展開は一切なかったり…

しかし、池田敏春監督の洋画ナイズ演出冴え渡る残酷シーンの前では、そんな不満点など霧散霧消してしまう。
弓矢を使ったダブルトラップ発動場面など、思わずゾクッとうしろめたい快感が背筋を駆け抜ける見事なもの。
前半、AV女優小林ひとみ演じるスタイリスト麗が串刺しにされるシーンでは、串を一本にしときゃ比較的簡単な仕掛けで済むものを、わざわざ三本、前とヨコと後ろから三方刺しという大盤振る舞い。
極めつけはやはり、最後に明かされる弟の正体であろう…。これは、映画をみてぜひとも確認してほしい。
“これからは、日本でも、どんどん、こんなホラー映画がつくられるんだ!”
鑑賞後、そこには邦画スプラッターの未来を感じとり、打ち震える少年の姿があった…。
 

だが?

少年の期待は、ひとりのロリコンが引き起こした許しがたい犯罪によって、粉々に打ち砕かれることとなる。
“宮崎勤事件”
それは幼子の命のみならず、邦画スプラッターの未来さえも奪った憎っくき事件。
メディアが寄ってたかって、“こんな事件が起きたのは、残忍なホラー映画のせいだ”と、アホ極まりない短絡的な見解を恥ずかしげもなく連呼したがために、店先からはさながら焚書のごとくホラー映画が撤去され、続編が企画されていた邦画クリーチャー映画は製作中止の憂き目に。新たに作られるホラー映画も、残酷なヴィジュアル表現はなるだけ自粛。おのずと、ホラーは心理サスペンスやスリラー、心霊的恐怖へとシフトしていくようになった。
全体的な製作本数も爆発的に増えるようなことは、もちろんなかった…。

そして時代は流れ?
ヘンテコ愉快な人生を送った少年は、いまや中年と呼ばれる年齢に達していた。
個人経営のビデオ屋は、ほとんどがこの世から姿を消しつつあり、録画メディアもDVDからBlu-rayへと目覚ましい進化を遂げていた。
そして、大手チェーンが経営するビデオ屋の棚には?
そこには…。
血しぶき飛び散るDVDパッケージが、邦画のコーナーに所せましと並んでいた!
デジタル技術、特殊メイク技術の発達で、残虐表現には磨きがかかり、ゴア映画を専門に扱う製作会社もあるほど!
ここはパライソ?
それともヴァルハラ?

しかしながら、かつて少年だった血に飢えたケダモノは、それら現代の和製ホラーたちに、何とも言えぬもどかしさを感じていた。
迫害されないよう、絶滅してしまわないよう、工夫を重ねてきた結果、生み出されたであろう現代和製スプラッターの作風…。
“ブラック”、“笑える”だ…。

老いたのかもしれない…。
時代の流れについていけてないだけかもしれない…。
けど…。
おちゃらけ要素のない、本気で挑んだ和製ホラーがまたみたい…。
ギャグやユーモアに逃げない真摯にエゲツないスプラッターがまたみたい…。
激しくやり過ぎて、結果的にゴアシーンがギャグに見える…そんな…。

そんな和製ホラーに、もう一度出会える日を夢見て、すっかり年をとったケダモノは今日もビデオ屋へ通う。
やがて年老い、命尽きるその日まで…。

 

Written by るちお[@LucioFulci74](副部長)

 

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ちまつり!スプラッター部 について

ちまつり!スプラッター部(略称:ちまスプ)は、スプラッター、スラッシャー、スリラー映画が好きなひとのための部活動です。 絶賛部員募集中!! 詳しくは「ちまスプとは」をみてね。

1件のフィードバック »

  1. […] そしていよいよ『死霊の罠』の上映です。 『死霊の罠』は「日本初!! 本格的スプラッター・ホラー」と謳われる、1988年の池田敏春監督の劇場公開作品。 「送られてきたスナッフフィルムの真相を探る」スリラーな物語に、眼球刺し・串刺し・切り刻み等の気合の入ったスプラッター描写、そして『アリス・スイート・アリス』のようなレインコートの殺人鬼が登場するなど、まさに「ちまスプ」にふさわしい2S1T(Splatter、Slasher、Thriller)を兼ね備えた作品です。(るちお副部長によるレビュー記事もぜひご覧ください) 『死霊の罠』を見たことがある方は、気になる部分にさりげない突っ込みを入れたり、みたことのない方は当時のスプラッター描写に驚いたりしていました。私はというと、約30名が集まって110インチのスクリーンで、妙に長いセックスシーンを観ることなんてきっとそうそうないだろうなと、しみじみ思っておりました。 もちろん上映中も話しに華が咲くのですが、今後の課題のひとつもそこに発見したりと、上映会オフの形をいろいろ考えることができました。やっぱり、何事もまずはやってみないとわからないものですね。 […]

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